4月からポスドクが加わりました
- 保全生物学研究分野
- 2020年6月11日
- 読了時間: 4分
更新日:2020年8月5日
みなさま、こんにちは。
今年度、ポスト・ドクターとして所属している伊藤睦実です。
遅ればせながら、自己紹介がてら今回のブログを担当させていただくことになりました。
私は、今年の3月に(今はなき)首都大学東京にて博士号を取得し、今年の4月から本研究室にお世話になっております。
専門分野は動物生態学で、特に植物と動物の関係性に興味をもち、学生時代は樹上性草食哺乳類であるムササビの採食行動について調べていました。
ムササビは、主に樹木の葉を食べて暮らしていますが、葉というのは他の部位(花、実、種子など)と比べて、供給量は十分な反面、栄養価が低いという特性を持つ食物です。
さらに、植物側としては葉を食べられたくありませんので、草食動物(昆虫も含む)への対抗策として物理防御(棘や毛など)や化学防御(フェノール類やアルカロイドなど)を発達させています。
したがって、葉を食べる動物では、植物の防御機構を避けつつ、できるだけ栄養価の高い樹種の葉や、一枚の葉の中でも特に栄養価の高い部位を選んで食べるというような、効率のよい食べ方が発達していると考えられます。
ムササビは、葉を食べるときに前脚で器用に葉を折りたたみ、折りたたんだところを食べるという特徴的な食べ方をすることが知られています。
そのため、ムササビが食べた葉には、折り目のついた左右対称の食べ跡が残ります(写真1)。
この食痕はムササビに特有なため、フィールドで見つけると「ここにムササビがいるんだ!」というサインになります。
見つけやすいことは我々にとって好都合ではありますが、当のムササビは、なぜわざわざこのような複雑な行動を伴う食べ方をするのでしょうか。
こういった疑問について、一枚の葉での苦み成分(フェノール類)の分布との関係性に着目して調べたところ、ムササビがよく食べる樹種であるクヌギの葉では、葉のふちで苦み成分の濃度が高くなっていることが分かりました(論文1)。
このことから、ムササビが葉を折りたたんで、葉の真ん中のみ食べるのは、苦み成分の多い葉のふちを上手に避けた食べ方であることがわかります。
また、上手に真ん中のみ食べる食べ方は、できる個体とできない個体がいることがわかっています(論文1)。
つまり、この食べ方はどのムササビも生まれ持ってできるわけではなく、食べ方を習得するために、自己学習や社会学習(親から子への伝達)が必要であると予想されます。
さらに、ムササビは、糖濃度が高い樹種の葉を好んで食べることがわかっていますが、糖濃度が高い葉には、同時に防御物質であるフェノール類も多く含まれていることも明らかになっています(論文2)。
このことから、ムササビは、糖濃度が高くフェノール類も多く含まれる葉を効率的に食べるために葉の食べ方を工夫している、と考えられました。
このように、植物のもつ特性やムササビの生息する環境全体について考えることで、ムササビの不思議な採食行動も、少しずつ解明することができいます。
「なんでそんな食べ方をするんですか?」「どうやってその食べ方を習得したんですか?」「葉のふちって、ほんとうにマズイんですか?」「どういう葉っぱがおいしいんですか?」などなど、ムササビにインタビューできたら最高なのですが…まだまだわからないことがたくさんあります。
野外の生き物についての研究では、もちろん、継続したフィールドワークにより十分なデータを収集することが重要です。
ムササビの研究を始めてからこれまで7年ほど、ムササビの食べた葉っぱ集めに夢中になっていましたが、その反面、座学をおろそかにしてきてしまった気がしています。(そのせいにしてはいけませんね、ただ単に、勉強をサボっていただけです。)
最近は、「今からでも遅くない…」と、前向きに、生態学入門の教科書を開いています。

写真1:ムササビの特徴的な食痕のついたクヌギの葉。これらの食痕は、葉の先端から食べたもの(Type A)、葉の基部から食べたもの(Type B)、葉の中央を食べたもの(Type C)の3つのタイプが区別される。食べ方のタイプにかかわらず、ほとんどの食痕で、葉に折りたたんだ跡が残っており、左右対称の食べ跡になっている点が、ムササビの食痕の特徴である。(論文1より)
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